外国人材活用は「月給」だけで決めない――育成就労制度を前に考える採用の経済合理性

industrial workers operating machinery indoors
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日本で働く外国人は、過去最多を更新しています。

厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人。前年から11.7%増え、外国人を雇用する事業所も37万1,215所に達しました。

2026年8月31日に公表された「令和7年外国人雇用実態調査」では、外国人を雇う理由として「労働力不足の解消・緩和」が68.2%で最も多く、「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待」が56.2%で続いています。

人手不足への対応と、戦力としての期待。その両方が、外国人材の採用を後押ししています。

では、外国人材は日本人よりも低いコストで確保できる人材なのでしょうか。

統計には、在留資格によって賃金水準に差があるように見える数字があります。しかし、その差をそのまま「採用コストの差」と読むことはできません。職務や経験が異なるうえ、採用、教育、生活支援、現場管理、在留手続、定着まで含めれば、企業が負担するコストは月給だけでは決まらないからです。

さらに、2027年4月に始まる育成就労制度では、技能実習から制度の目的や転籍の仕組みが変わります。企業側の育成力と定着力が、これまで以上に投資回収を左右します。

外国人材の採用を進めるか否かは、理念や賛否だけで決める問題ではありません。比較すべき単位を「採用時の月給」から、一定期間後に必要な技能へ到達し、定着している人材1人当たりの総コストへ変えることが、合理的な出発点になります。

外国人雇用は257万人、企業の課題は採用後にも広がる

まず、最新統計の主要な数字を確認します。

項目最新値読み取れること
外国人労働者数257万1,037人前年比11.7%増、過去最多
外国人を雇用する事業所37万1,215所前年比8.5%増、過去最多
労働力不足の解消・緩和を目的に雇用68.2%人手不足への対応が最大の採用理由
日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待56.2%単なる人数補充以外の期待も大きい
日本語能力等によるコミュニケーションが課題46.2%採用後の現場運営が成果を左右する
在留資格申請等の事務負担が課題24.8%人事・総務・外部専門家の工数が必要
生活環境の整備にコストがかかる21.9%給与以外の費用も無視できない

※外国人労働者数と事業所数は2025年10月末時点の届出状況。採用理由・課題は、雇用保険被保険者5人以上かつ外国人労働者を1人以上雇用する事業所等を対象とした「令和7年外国人雇用実態調査」によります。

外国人材を採用するとき、入り口では募集人数、紹介費、月給が注目されます。しかし、調査で最も多い課題はコミュニケーションです。事務負担、文化・生活習慣の違い、生活環境の整備も挙げられています。

つまり、採用の成果は人事部門だけでは完結しません。現場の指導、安全衛生、品質管理、日本語教育、住宅・生活支援、在留管理まで含む会社全体の運営能力に左右されます。

「月21.35万円」を、そのまま割安とは読めない

「令和7年外国人雇用実態調査」では、一般労働者の「月間きまって支給する現金給与額」は全体平均で29万2,400円でした。在留資格別では、次のようになっています。

在留資格等月間きまって支給する現金給与額
専門的・技術的分野30万6,500円
うち特定技能25万4,100円
技能実習21万3,500円
身分に基づくもの34万7,200円

技能実習の平均額は、ほかの区分より低く見えます。ただし、この表から「同じ仕事を外国人に任せれば、人件費が下がる」と結論づけることはできません。

第一に、在留資格ごとに従事する業種、職務、技能、勤続年数などの構成が異なります。同一の仕事、能力、責任をそろえた賃金比較ではありません。

第二に、示されているのは賃金の一部であり、企業の総負担額ではありません。社会保険、採用・取次費、渡航や住宅の初期費用、日本語・技能教育、通訳、生活支援、在留手続、現場指導者の工数などは含まれていません。

第三に、外国人にも労働関係法令が適用され、国籍を理由とする労働条件の差別は認められていません。現行の技能実習でも、日本人が同じ仕事に従事する場合と同等以上の報酬が求められています。育成就労制度でも、同じ業務を担う日本人と職務内容・責任が同等なら、日本人と同等以上の報酬であることを立証する必要があります。

平均値の差は、制度別・職務別の構成差を含んだ結果です。自社の採用判断では、平均賃金ではなく、自社で任せる仕事と必要技能をそろえた比較が必要です。

経済性は「定着した戦力1人当たりの総コスト」で測る

外国人材活用の経済性を検討するときは、少なくとも次の費用を一つの式にまとめます。

総コスト = 賃金・社会保険・残業代 + 採用・取次費 + 渡航・住宅初期費用 + 日本語・技能教育費 + 通訳・生活支援費 + 現場指導時間 + 在留申請・記録・監査対応 + 生産性の立ち上がり期間のコスト + 離職・転籍時の再採用費

ここで分母を「採用人数」にすると、採用した時点で成功したように見えます。しかし、採用後に必要技能へ到達しなかったり、早期に離職・転籍したりすれば、採用費や教育費をもう一度負担することになります。

そこで、たとえば次の指標で比較します。

36か月間の総コスト ÷ 36か月後に必要技能へ到達し、在籍している人数

この指標なら、採用単価だけでなく、教育の質、現場負荷、技能到達、定着が同じ計算に入ります。

外国人と日本人を別々の基準で比較する必要もありません。国内の新卒・中途採用、外国人材、派遣・外注、省人化投資などを同じ期間と成果指標で比べれば、どの手段が自社にとって合理的かを判断しやすくなります。

技能実習から育成就労へ、何が変わるのか

育成就労制度は2027年4月1日に始まります。その準備として、監理支援機関の許可に関する施行日前申請は2026年4月15日に始まり、育成就労計画の認定に関する施行日前申請も2026年9月1日から受け付けられる予定です。現行の技能実習制度から名称だけが変わるわけではありません。

比較項目技能実習制度育成就労制度
制度の目的技能移転を通じた国際貢献人材育成と人材確保
基本的な期間1号・2号・3号、最長5年原則3年
育成の目標技能実習計画に沿った技能修得特定技能1号水準への育成
転籍原則不可。やむを得ない事情等の場合は可能やむを得ない事情に加え、一定要件の下で本人意向による転籍が可能
本人意向による転籍制度上の仕組みなし同一業務区分内で、技能・日本語能力や1~2年の転籍制限期間等の要件あり
日本語能力原則共通の入国要件はなく、分野による例外あり就労開始前のA1相当または所定講習、終了時のA2相当を基本に段階的に育成。分野別の上乗せあり
監理監理団体許可基準が見直された監理支援機関
その後のキャリア要件を満たせば特定技能等へ移行試験合格を経て特定技能1号への移行を想定

新制度で経営上とくに重要なのは、転籍と育成目標です。

本人意向による転籍には技能・日本語能力、同一業務区分、転籍制限期間などの条件があります。誰でも直ちに自由に転籍できる制度ではありません。一方で、一定条件を満たせば、より自分に合う職場を選ぶ余地は広がります。

企業から見れば、制度上の在籍可能期間と、本人が自社で働き続ける期間を分けて考える必要があります。採用後の処遇、育成、上司との関係、仕事の説明と実態の一致、キャリアの見通しが、投資回収に影響する経営変数になります。

また、育成就労では、原則3年間で特定技能1号水準へ育てることが目的になります。日本語についても、A1・A2相当の段階的な目標が設けられ、所定の日本語教育機会の提供と費用負担が受入れ側に求められます。

安定した戦力を得るには、募集ルートの確保だけでなく、3年間の育成計画を実行できる体制が必要です。

共通の職務・技能基準が、採用競争力を守る

外国人材の採用によって日本人の雇用条件が自動的に悪化するわけではありません。反対に、外国人を採用しなければ自動的に処遇が改善するわけでもありません。

経営上の分岐点は、国籍によって人事制度を分けるか、仕事と技能を基準に共通化するかです。

人手不足を低い賃金の採用で埋めることだけを優先すると、短期的には人員を確保できても、次の問題が残ります。

  • 採用難の原因となっている仕事の進め方や処遇が変わらない
  • 省人化、自動化、工程改善の投資判断が先送りされる
  • 同じ仕事を担う従業員の納得感を説明しにくい
  • 技能が上がっても処遇や役割が変わらず、定着投資を回収しにくい
  • 日本人と外国人の双方について、より条件のよい職場との採用競争が続く

経営上の対応は、人事と生産性の仕組みを整えることです。

たとえば、同じ職務には同じ賃金レンジを適用し、技能、日本語力、指導力、担当できる工程など、事業に必要な能力が高まれば処遇も上がる設計にします。外国人材だけの特別な仕組みにせず、日本人を含む全従業員の職務・技能基準として使えば、賃金の説明力と育成の再現性が高まります。

さらに、人手不足の工程では、次の順に選択肢を比べます。

  1. その業務を廃止・簡素化できないか
  2. 工程改善や自動化で必要人数を減らせないか
  3. 配置、勤務時間、雇用形態を見直せないか
  4. 国内採用、外国人採用、外注のどれが適するか
  5. 採用する場合、3年後・5年後にどの役割を任せるか

外国人材の採用を、賃金を抑える手段ではなく、仕事の標準化、教育の仕組み化、多言語で伝わる安全管理、技能評価の明確化を進める機会にできれば、その効果は日本人従業員にも及びます。

日本人の採用競争力と外国人材の定着力は、同じ経営基盤で決まります。その基盤は、仕事に見合う処遇、成長に応じた評価、生産性を高める業務設計です。

導入前に確認したい5つの経営指標

外国人材の採用人数を決める前に、次の指標を自社の数字で確認します。

1.36か月後の定着率

採用者のうち、12か月後、24か月後、36か月後に何人が在籍しているかを見ます。在籍だけでなく、本人意向による転籍や途中帰国の理由も記録します。

2.必要技能への到達率

何か月で単独作業が可能になったか、担当できる工程がどこまで増えたか、技能試験と日本語試験の合格状況はどうかを確認します。

3.教育・管理時間

現場指導者、人事、総務、通訳、外部支援機関が使った時間を集計します。見えない社内工数を把握しなければ、総コストは過小評価されます。

4.品質・安全・生産性

不良率、手直し、設備停止、安全上のヒヤリハット、生産性の立ち上がりを採用前後で比較します。個人別の評価だけで終わらせず、作業標準や教育方法に起因するコストの改善材料として使います。

5.定着した戦力1人当たり総コスト

採用費や月給だけでなく、3年間に発生した費用を、必要技能へ到達して定着した人数で割ります。国内採用、外注、自動化投資とも同じ期間で比較します。

まとめ 低い単価ではなく、高い再現性を選ぶ

外国人労働者は257万人を超え、外国人材は日本企業の人材戦略において無視できない存在になっています。

一方、外国人雇用実態調査が示す賃金の平均値は、職務や経験をそろえた比較ではありません。外国人にも労働関係法令が適用され、育成就労制度では同じ仕事を担う日本人と同等以上の報酬が求められます。

外国人材活用の経済性を決めるのは、採用時の月給だけではありません。

採用し、育て、必要な技能へ到達し、本人に働き続ける職場として選ばれるまでの総コストと再現性が、投資の成果を決めます。

仕事と技能に基づく共通の処遇、標準化された教育、現場負荷の測定、生産性向上への投資が整えば、外国人材の採用は単なる人員補充を超えた人材戦略になります。その仕組みは、日本人従業員の育成や雇用条件を持続的に改善する土台にもなります。

2027年4月の制度移行を前に、まず決めるべきは採用人数ではありません。どの仕事を担ってもらい、どの能力を育て、3年後にどの役割へつなげるのか。その設計から始めることが、結果として最も経済合理的です。


自社の人材戦略に当てはめるときに

本稿は、公表資料を基に外国人材活用を検討するための一般的な考え方を整理したものです。

自社の採用計画、育成体制、在留資格別の人材構成、総コストを整理する際に、考え方の整理や第三者の視点が必要になりましたら、お問い合わせフォームからお声がけください。内容を拝見したうえで、対応できる範囲をご案内します。


出典・参考資料

  1. 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(2026年1月30日公表)
  2. 厚生労働省「『令和7年外国人雇用実態調査』の結果を公表します」(2026年8月31日公表)
  3. 出入国在留管理庁「育成就労制度」
  4. 出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
  5. 出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」
  6. 出入国在留管理庁「育成就労制度に係る施行日前申請」
  7. 厚生労働省「外国人労働者にも労働関係法令の適用があります」

注記

  • 本記事は2026年8月31日までに公表された資料に基づいています。
  • 外国人雇用実態調査の賃金額は「月間きまって支給する現金給与額」の平均であり、職務、技能、勤続年数等をそろえた比較ではありません。
  • 育成就労制度の要件は分野・業務区分によって異なり、今後も運用情報が追加・更新される可能性があります。個別の受入れでは、最新の法令・運用要領を確認し、必要に応じて行政書士、弁護士、社会保険労務士等の専門家へ相談してください。
  • 本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別の採用、在留資格申請、労務管理に関する法的助言ではありません。