景況感は大企業+5.3、中小企業▲10.9――人手不足とコスト高の下で何を優先するか

2026年9月11日に公表された内閣府・財務省の「法人企業景気予測調査」では、7~9月期の自社の景況判断BSI(※)が、大企業でプラス5.3、中堅企業でプラス0.8、中小企業でマイナス10.9となりました。
※BSI(Business Survey Index)は、前期と比べて「上昇」と回答した企業の割合から「下降」と回答した企業の割合を差し引いた指数です。プラスは上昇とみる企業が多く、マイナスは下降とみる企業が多いことを示します。
同じ日本経済の中でも、見えている景色は企業規模によって大きく異なります。さらに、国内の景況判断BSIは、大企業がプラス2.9である一方、中堅企業はマイナス4.3、中小企業はマイナス19.2です。
景気の改善を待ってから動くのか。それとも、需要が弱いままでも先にコスト構造を変えるのか。いま経営に求められているのは、景況感の平均値に一喜一憂することではなく、自社の利益を左右する数字を見極めることです。
景況感が改善しても、利益が増えるとは限らない
日本銀行が9月11日に公表した8月の国内企業物価指数は、前月比では0.2%低下したものの、前年同月比では7.6%上昇しました。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、7月の現金給与総額が前年同月比4.7%増、所定内給与が4.1%増となっています。
企業物価と賃金は対象も性質も異なるため、二つの上昇率をそのまま差し引いて利益への影響を測ることはできません。ただし、仕入価格と人件費の双方が前年を上回る状況では、売上が増えても粗利が残らない企業が出やすくなります。
見るべきなのは売上高だけではありません。顧客別・製品別に、現在の販売価格から最新の材料費、外注費、物流費、労務費を差し引いたとき、どれだけ粗利が残るかを確かめる必要があります。
価格改定後も利益が見えにくい場合は、関連記事「値上げしたのに利益が増えない――中小製造業で価格転嫁の効果が見えにくい3つの理由」もご参照ください。
求人がやや弱含んでも、人手不足は解消していない
7月の有効求人倍率は1.18倍で前月と同水準、新規求人倍率は2.10倍で前月から0.06ポイント低下しました。新規求人は前年同月比0.8%減です。一方、完全失業率は2.4%と前月から0.1ポイント低下しています。
求人の勢いにはやや鈍化が見られますが、法人企業景気予測調査の従業員数判断BSIは、大企業で26.7、中堅企業で34.3、中小企業で27.8の「不足気味」超です。採用市場が一方向に悪化または改善しているのではなく、業種・地域・職種ごとの差が広がっているとみるべきでしょう。
「求人倍率が下がったから採用しやすくなる」と決めつけるのは早計です。自社が必要とする人材について、応募数、採用単価、採用までの日数、入社後の定着率を分けて見る必要があります。
人手不足は、人事部門だけの問題ではない
同調査で人手不足が経営に与える影響をみると、中小企業では「賃上げに伴う人件費の上昇」が47.1%で最も多く、「業務量・残業時間の増加」が42.9%、「技術・ノウハウの伝承や人材育成の停滞」が30.8%と続きました。
これは単なる採用難ではありません。残業代の増加、納期の長期化、受注機会の逸失、品質の不安定化、管理職への業務集中が連鎖すれば、売上と利益の両方を押し下げます。
採用人数を増やす前に、どの工程の不足が会社全体の処理能力を制約しているかを特定することが先です。営業、見積り、設計、製造、検査、承認のどこが詰まっているかによって、打ち手は変わります。
優先したい三つの経営判断
1 売上ではなく「粗利/総労働時間」を見る
人件費上昇を吸収できているかは、売上高人件費率だけでは判断できません。値上げ、製品構成、外注化、生産性の変化をまとめて捉えるには、粗利を総労働時間で割った数字を継続して確認する方が実態に近づきます。
会社全体だけでなく、主要顧客、主力製品、重要工程ごとに見ると、どこで利益が生まれ、どこで人手を消費しているかが分かります。
2 「採る・機械化する・外へ出す・やめる」を同じ土俵で比べる
人が足りないとき、採用だけを解決策にすると、採用費、教育期間、離職リスクを見落とします。対象業務ごとに、採用、設備・IT投資、外注、業務廃止の四案を並べ、年間費用だけでなく、立ち上がりまでの期間、品質、柔軟性も比較します。
AIやITの導入も、利用回数ではなく業務全体のリードタイムや残業の変化で評価する必要があります。詳しくは「AIで仕事は速くなった。なのに、なぜ職場は楽にならないのか」で整理しています。
3 投資回収を「削減額」だけで計算しない
法人企業景気予測調査では、2026年度の設備投資が全産業で前年度比11.0%増となる見込みです。しかし、投資額が増えていることと、自社がいま投資すべきことは別です。
設備やシステムの効果は、削減できる残業代だけでなく、増やせる限界利益、回避できる外注費・採用費、減らせる不良や手戻りまで含めて見積もります。そのうえで、回収期間と導入中の資金繰りを確認します。
年間効果 = 増加する限界利益 + 回避できる費用 - 新たに発生する運用費
数字に幅がある場合は、楽観・標準・悲観の三つのケースを置くと、判断の安全性が高まります。
今月の経営会議で確認したい五つの数字
- 顧客別・製品別の最新粗利額と粗利率
- 粗利/総労働時間の推移
- 部門別の残業時間と滞留時間
- 採用一人当たりの費用、採用日数、定着率
- 受注残、失注、納期遅延が生んだ機会損失
全部を精密に測る必要はありません。まずは影響の大きい顧客、製品、工程に絞り、毎月同じ基準で追える数字を決めます。
景気の平均ではなく、自社の風向きを読む
大企業の景況感がプラスでも、中小企業まで同じ追い風が届くとは限りません。反対に、全体の景況感が弱くても、需要の強い顧客や製品へ人と設備を振り向ければ、利益を確保できる企業はあります。
人手不足とコスト高が同時に進む局面では、「もっと売る」「もっと採る」だけではなく、どの仕事に人を使い、どの仕事を仕組みに置き換え、どの取引から利益を得るのかを決めることが重要です。
自社の数字をどの単位で整理すべきか、投資案や人員配置をどのように比較すべきか迷われる場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。状況を伺い、検討の入口を一緒に整理します。
参考資料
- 内閣府・財務省「法人企業景気予測調査(令和8年7~9月期)」
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年7月分結果速報」
- 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年7月分結果」
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」
- 日本銀行「企業物価指数(2026年8月速報)」
※各資料は調査対象、集計方法、指標の定義が異なります。数値を単純に比較せず、経営環境を多面的に捉えるための材料として使用しています。

