景況感は5期ぶり改善。それでも「回復」と言い切れない理由

電卓とグラフ資料を使って利益と資金繰りを分析するイメージ
写真:RDNE Stock project(Pexels)

中小企業の景況感に、改善の兆しが見えてきました。中小企業基盤整備機構の「第185回中小企業景況調査」では、2026年7–9月期の全産業の業況判断DIはマイナス15.5。前期から3.2ポイント上昇し、5期ぶりの改善となりました。

ただし、「景況感が改善した」ことと、「利益が増えた」「手元資金が増えた」ことは同じではありません。外部環境が上向き始めたときこそ、この三つを分けて確認する必要があります。

改善しているが、まだ「回復」とは言い切れない

今回の中小企業景況調査では、製造業、建設業、卸売業、サービス業、小売業のすべてで業況判断DIが上昇しました。一方、数値は製造業がマイナス10.3、建設業がマイナス12.7、卸売業がマイナス13.4、サービス業がマイナス13.0、小売業がマイナス26.3と、全業種でなおマイナスです。

同じ9月30日に日本政策金融公庫が公表した調査でも、売上げDIはマイナス0.1まで改善し、利益額DIはプラス2.6となりました。しかし、資金繰りDIは5.7から5.4へ小幅に低下しています。

内閣府の8月の景気ウォッチャー調査も、現状判断DIは46.4と4か月連続で上昇し、先行き判断DIも48.3へ上昇しました。それでも、いずれも好不況の分岐点とされる50を下回っています。

改善とは、前より良くなったという方向の話です。回復とは、必要な水準まで戻ったかという水準の話です。

二つを混同すると、先行きへの期待だけで採用や投資を先行させ、利益や資金繰りを圧迫する可能性があります。

※調査ごとに対象企業、質問、DIの定義が異なるため、数値そのものを単純には比較できません。ここでは、各指標が示す方向を確認しています。

景況感、利益、現金は別々に見る

景況感は「企業の実感」

業況判断DIは、企業が前年同期などと比べて業況をどう感じているかを表します。受注の引き合いや来店客数が増えれば、実際の利益がまだ増えていなくても、景況感は改善することがあります。

利益は「売上から費用を引いた結果」

売上が増えても、原材料費、人件費、物流費、外注費、設備費、金利負担がそれ以上に増えれば、利益は残りません。売上高だけではなく、何を、誰に、どれだけの利益率で販売したかを見る必要があります。

現金は「入金と支払いの結果」

利益が出ても、売上代金をまだ回収していなければ現金は増えません。在庫の積み増し、設備代金の支払い、借入金の元本返済でも、利益以上に現金が減る場合があります。

利益が残らない五つの原因

利益 = 販売数量 × 1件当たりの利益 − 固定費 − 金融費用

この式に沿って考えると、利益が残らない原因は「価格転嫁の遅れ」だけではないことが分かります。

1.販売価格がコスト上昇に追い付いていない

日本政策金融公庫の9月調査では、仕入価格DIは35.3、販売価格DIは20.1でした。二つのDIの差がそのまま利益率を示すわけではありませんが、仕入価格上昇の広がりが販売価格上昇をなお上回っていることが分かります。

値上げが難しい場合も、価格だけでなく、最低発注量、配送回数、納期、仕様、決済条件、無償対応の範囲を見直す余地があります。

2.売上の「中身」が変わっている

売上総額が増えても、利益率の低い商品や値引きの大きい顧客の比率が上がれば、利益は増えません。商品別、顧客別、販売経路別に、売上高だけでなく粗利益額と粗利益率を確認します。

3.数量増加に伴う隠れた費用が増えている

小口受注、短納期、個別仕様、頻繁な配送、問い合わせや返品への対応には、見積書に表れにくい人件費がかかります。「売れているのに忙しいだけ」という状態では、付帯作業を含めた採算を見直す必要があります。

4.人件費と固定費が先に増えている

採用、賃上げ、教育、残業、外注の費用は、売上が本格的に増える前から発生します。将来の成長に必要な支出でも、回収時期を見込まなければ利益を圧迫します。

5.設備費と金利負担が増えている

日銀は9月、短期金利の誘導目標を1.25%程度へ引き上げました。設備投資では、導入効果だけでなく、減価償却費、保守料、利用料、支払利息を含めて利益への影響を確認します。

利益が出ても、現金が残らない理由

営業による現金の増減
= 税引後利益 + 減価償却費
− 売掛金の増加 − 在庫の増加 + 買掛金の増加

さらに、設備投資と借入金の元本返済を差し引かなければ、最終的な手元資金は分かりません。

例えば、税引後利益が50万円、減価償却費が20万円あっても、売掛金が150万円、在庫が80万円増え、買掛金の増加が40万円なら、営業面の現金は120万円減ります。黒字であっても、資金繰りが苦しくなる例です。

売上が増え始める局面では、仕入れと人件費の支払いが、売掛金の回収より先に来やすくなります。景況感の改善局面で運転資金が必要になるのは、このためです。

経営会議では六つの数字を分けて確認する

  • 受注量・販売数量:需要が本当に増えているか
  • 1件当たりの粗利益:価格が変動費を十分に上回っているか
  • 商品別・顧客別の利益:売上構成が悪化していないか
  • 人件費・物流費・固定費:売上より先に膨らんでいないか
  • 売掛金と在庫の日数:現金化までの期間が長くなっていないか
  • 設備支出と借入返済後の資金:最終的に現金がいくら残るか

売上、利益、現金を一つの数字で判断せず、原因ごとに分解すれば、値上げ、商品整理、取引条件変更、在庫削減、借入期間の見直しなど、必要な施策を選びやすくなります。

景況感が上向き始めた今こそ、利益構造を点検する

景況感の改善は前向きな材料です。ただし、その恩恵が自社の利益や現金に届くかどうかは、別の問題です。

景気の本格回復を待つのではなく、改善の兆しが出た段階で、価格、数量、商品構成、費用、売掛金、在庫を点検する。外部環境の変化を自社の経営成果につなげるには、この順番が重要です。

自社では、売上・利益・資金繰りのどこに課題があるのか。
数字を整理し、打ち手を検討するところからお手伝いできます。必要な際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。


主な参考資料