工場は無事なのに稼働できない。中小製造業のBCPで見落としやすい「社外リスク」

書類を広げ、事業継続計画について話し合うビジネスチーム
写真:Los Muertos Crew(Pexels)

自社工場が被災しなければ、生産は続けられる——そう考えてはいないでしょうか。

実際には、工場の建物や設備が無事でも、従業員が出社できない、電力や水が止まる、材料が届かない、完成品を出荷できない、といった理由で生産は止まります。中小製造業の事業継続を左右するのは、工場の中だけでなく、その外側にある依存関係です。

重要性は理解されても、経営課題にはなり切っていない

内閣府が2026年10月9日に公表した「国土強靱化に関する世論調査(速報)」では、国土強靱化の取組を「重要」と考える人は98.0%、自分や家族、地域で取り組みたい人は93.9%に達しました。

一方、居住地の災害リスクを「よく知っている」人は12.8%です。また、国土強靱化に役立つ取組として「災害など不測の事態に強い産業構造を作ること」を挙げた人は30.1%にとどまりました。

「大切だと思うこと」と、「自社の操業や納期にどう影響するかを具体的に把握すること」の間には、まだ距離があります。

BCPは、工場の敷地内だけでは完結しない

内閣府の「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」では、製造業のBCP策定率は66.3%でした。しかし、BCP策定済み企業のうち「サプライチェーン維持のための方策」を盛り込んでいる割合は、全体で30.6%、製造業で53.7%です。

さらに、有事の具体的な協力体制として「サプライチェーン全体での関係強化」に取り組む割合は全体で15.9%、調査上の「その他企業」では12.1%でした。

計画書を作る企業は増えています。それでも、仕入先、外注先、物流会社、地域インフラまで含めて備える段階には、十分に届いていない可能性があります。

中小製造業を止める「社外の四つの弱点」

1.従業員とその家族

設備が動いても、従業員が出社できなければ生産はできません。本人が無事でも、家族の避難、介護、停電や断水への対応が必要になれば、出勤は難しくなります。安否確認だけでなく、何人なら、どの製品を、どこまで生産できるかを考えておく必要があります。

2.電力・水・通信

製造工程によっては、短時間の停電や断水でも仕掛品の廃棄、設備の再調整、品質確認が必要になります。「止まった時間」と「再開に必要な時間」は同じではありません。

3.道路・港湾・物流

国土交通省によると、建設後50年以上となる施設の割合は、2040年には道路橋で約75%、港湾施設で約68%に達する見込みです。災害による寸断だけでなく、老朽化に伴う通行規制や機能停止も、納期を左右する経営リスクになります。

4.仕入先・外注先

特殊材料、表面処理、熱処理、金型などを一社だけに依存している場合、自社に在庫があっても、工程全体は止まります。直接の仕入先だけでなく、その先の供給元まで見なければ、真のボトルネックは分かりません。

経営者が確認したい五つの質問

  • 一社からしか調達できない材料や工程は何か。
  • 一本道、一つの港、一社の物流会社に依存していないか。
  • 電力、水、通信が何時間止まると、製品や設備に損失が出るか。
  • 従業員が半数しか出勤できないとき、何を優先して生産するか。
  • 操業停止が何日続くと、納期だけでなく資金繰りに影響するか。

すべてを一度に解決する必要はありません。まずは「一か所が止まると、会社全体が止まる場所」を一つ見つけることが出発点です。

優先順位は「起こりやすさ」だけで決めない

災害やインフラ停止は、発生時期を正確に予測できません。そのため、「起こる確率が低そうだから後回し」と考えがちです。しかし、経営判断では、発生可能性に加えて、停止したときの売上、利益、顧客信用、資金繰りへの影響を見る必要があります。

対策費用を考える前に、まず「何が止まるか」「何日止まるか」「何を失うか」を整理する。ここまでできれば、在庫を積むべきか、代替先を探すべきか、設備や通信に投資すべきかという判断がしやすくなります。

BCPの完成は、文書ではなく判断できる状態

BCPは、分厚い災害マニュアルを作ることが目的ではありません。不測の事態でも、何を守り、何を止め、どこから復旧するかを経営者が判断できる状態を作ることが目的です。

工場の中が無事でも、会社は止まります。自社の外側にある依存関係を見えるようにすることが、「事業を止めないBCP」の次の一歩です。

自社の場合、どこから点検すべきか補足説明が必要な方は、お問い合わせください。


参考資料