給料は増えた。それでも財布は開かない。―消費者の「買えない心」をどうほぐすか

ノートパソコンの通販画面を見ながらクレジットカードを手に購入を検討する人
写真:Mikhail Nilov(Pexels)

「給料が増えれば、消費も増える」。一見すると自然な話ですが、現実の購買行動はそれほど単純ではありません。

内閣府の消費動向調査では、2026年9月の消費者態度指数は35.4と前月から0.1ポイント低下しました。内訳を見ると、「収入の増え方」と「雇用環境」はわずかに改善した一方、「暮らし向き」と「耐久消費財の買い時判断」は悪化しています。

つまり、収入や雇用への見方が少し良くなっても、消費者がすぐに財布を開くとは限りません。そこには、支払能力だけでは説明できない「買えない心」があります。

「買う力」と「買う気」は同じではない

2026年7月の毎月勤労統計では、現金給与総額は前年同月比4.3%増、実質賃金も2.0%増となりました。一方、同月の家計調査では、2人以上の世帯の消費支出は実質3.6%減でした。さらに、8月の消費者物価指数は総合で前年同月比1.9%上昇しています。

これらは調査対象や対象月が異なるため、単純な因果関係を示すものではありません。ただ、複数の統計を並べて見ると、賃金の改善だけでは消費を十分に説明できない、という一つの仮説が浮かびます。

消費者動向調査では、1年後の物価が上昇すると見込む人が90.6%に達しています。なかでも「5%以上上昇する」と見る人は47.6%です。実際の物価上昇率以上に、先行きへの警戒感が強い可能性があります。

財布を開かないのは、必ずしも非合理ではない

先行きが読みにくいとき、手元資金を残しておくことには経済合理性があります。光熱費や食料品、住宅費など避けにくい支出が増える可能性を考えれば、今すぐ必要でない買い物を先送りするのは自然な判断です。

また、人は「得をする喜び」よりも「失敗して損をする痛み」を強く意識しがちです。価格そのものより、「買って後悔しないか」「追加費用が発生しないか」「もっと良い選択肢があるのではないか」という不安が、購入を止めることがあります。

「買えない心」をつくる三つの壁

1.失敗したくない

効果が分からない、品質に確信が持てない、購入後に使いこなせるか不安。この壁を越えるには、値引きよりも、試用、保証、返品条件、導入支援などで「失敗した場合の損失」を小さく見せることが有効です。

2.先の負担が見えない

本体価格が分かっても、維持費、更新費、解約条件、作業負担が見えなければ、購入判断は止まります。総額と利用後の流れを具体的に示すことで、消費者は将来の負担を計算しやすくなります。

3.選ぶだけで疲れる

選択肢が多いほど売れそうに見えますが、比較項目が増えすぎると判断の負担も増えます。違いが分かりにくい複数の商品や料金プランは、「今回は見送る」という最も簡単な選択を招きかねません。

最初に下げるべきものは、価格とは限らない

売れ行きが鈍ると、まず値下げを考えがちです。しかし、値下げは粗利益を削るだけでなく、「待てばさらに安くなる」という学習を顧客に促すことがあります。

購入時に消費者が負担するのは、代金だけではありません。分からないことを調べる手間、選択肢を比べる手間、失敗への不安も、見えないコストです。価格を下げる前に、この不安と判断負担を下げられないかを考える余地があります。

値下げに頼らず「買える状態」をつくる五つの工夫

  1. 総額を見えるようにする
    本体価格だけでなく、送料、維持費、更新費、解約条件まで一つの画面で示します。
  2. 小さく始められる入口をつくる
    試用版、少量プラン、短期間契約など、最初の意思決定を軽くします。
  3. 失敗への備えを示す
    保証、返品、相談窓口、導入後の支援を明確にし、購入後の不安を減らします。
  4. 選択肢を整理する
    料金プランを絞り、「どのような人に、どれが向くか」を明示します。
  5. 判断材料を具体化する
    利用例、比較表、導入前後の変化など、顧客が自分に置き換えられる情報を提供します。

近日中の統計で確かめたいこと

近日中に公表される賃金や家計支出の統計では、「買う力」の改善が実際の消費につながっているかが、さらに明らかになります。新しい数字を見る際も、所得の増減だけでなく、暮らしへの不安や購入判断との組み合わせで捉えることが重要です。

当サイトでは引き続き、実質賃金の改善が続くか、消費支出がどの品目で動くか、物価見通しと買い時判断に変化が表れるかに注目していきます。お楽しみに。

「買わせる」のではなく、「決められる状態」をつくる

消費者の慎重さを、単なる節約志向と片づけると、本当の障壁を見失います。必要なのは、心理を操作することではありません。顧客が納得して判断できるだけの材料を整え、不安と手間を減らすことです。

自社の商品・サービスが、価格以外のどこで選ばれにくくなっているのか。購入までの障壁を整理し、商品設計や販売方法を見直したい場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。


参考資料