社員が辞める理由、上位は賃金・会社の将来・仕事内容――定着に効く3つの経営判断

industrial textile worker in blue uniform documenting production
Photo by EqualStock IN on Pexels.com

厚生労働省が2026年9月25日に公表した「令和7(2025)年転職者実態調査」では、転職者が直前の勤め先を離職した主な理由のうち、「自己都合」が81.3%を占めました。

自己都合による離職理由では、「賃金が低かったから」25.5%、「会社の将来に不安を感じたから」25.2%、「満足のいく仕事内容でなかったから」24.7%が上位です。

三つの割合はほぼ同水準です。社員の定着を「賃上げをすれば解決する問題」や「本人の意識の問題」と捉えるだけでは、打ち手を誤る可能性があります。経営として見るべきなのは、処遇、会社の将来、仕事内容を一体で改善したときの費用対効果です。

※上記の離職理由は、自己都合で離職した転職者による3つまでの複数回答です。個々の退職の原因を一つに特定する数字ではありません。

採用を増やすだけでは、人手不足は解消しない

同調査では、今後3年間に転職者を採用する予定がある事業所が63.6%に上ります。一方、現在の職場で今後も働きたいと答えた転職者は55.1%で、「機会があれば転職したい」が20.6%、「わからない」が22.9%でした。

採用した人数だけを成果にすると、人が入っては辞める状態を見落とします。採用費、面接や教育に使った時間、欠員中の残業・外注、納期遅延や受注機会の逸失まで考えれば、早期離職は人事部門だけの問題ではなく、利益と供給能力の問題です。

人口面からも、採用競争が自然に緩むとは考えにくい状況です。2026年1~7月の人口動態統計速報では、出生数から死亡数を差し引いた自然増減は49万7,203人の減少でした。総務省の人口推計でも、2026年4月1日現在の15~64歳人口は7,333万6千人で、前年同月から22万2千人減っています。

人口動態統計や15~64歳人口は、企業が採用できる人数を直接示すものではありません。しかし、中長期的な人材供給の制約を考えれば、「必要になったら採ればよい」から「採用した人が力を発揮し、残る仕組みをつくる」への転換が必要です。

人手不足が利益や現場に及ぼす影響は、関連記事「景況感は大企業+5.3、中小企業▲10.9――人手不足とコスト高の下で何を優先するか」でも整理しています。

定着に効く三つの経営判断

1 賃金額ではなく「社内外との納得できる差」を見る

全員を一律に引き上げるだけでは、重要職務や高い貢献への配分が薄くなり、総額人件費だけが増えることがあります。まず、地域・職種別の採用相場、既存社員との逆転や圧縮、役割と処遇の対応を確認します。

優先度が高いのは、市場相場との差が大きく、退職時の損失も大きい職種です。採用できない期間の外注費や残業代、失注粗利まで含めると、賃上げの方が安い場合もあります。

2 会社の将来を、経営者だけの情報にしない

「会社の将来への不安」は、業績が悪い会社だけに生じるものではありません。方針が伝わらない、投資の意図が見えない、自分の仕事が今後どうなるか分からない状態も不安を生みます。

中期計画を美しい資料にするより、重点顧客・事業、設備やDXへの投資、人員配置、必要となる能力を、現場の仕事と結び付けて説明する方が有効です。経営情報をすべて開示するのではなく、社員が自分の役割と成長機会を判断できる情報を定期的に示します。

3 仕事内容と能力発揮を、採用後に再確認する

転職者が現在の勤め先を選んだ理由は、「仕事の内容・職種に満足がいくから」が40.2%、「自分の技能・能力が活かせるから」が38.4%で上位でした。

入社時に合っていた仕事も、組織変更や業務の固定化によってずれることがあります。1対1の面談では満足度を尋ねるだけでなく、得意な仕事、負担が大きい仕事、増やしたい経験、上司が取り除くべき障害を確認します。配置転換、権限移譲、業務廃止、教育のどれが最も効果的かを判断します。

転職者への教育訓練を実施した事業所は82.6%で、そのうち計画的なOJTは79.8%でした。実施の有無だけで安心せず、独り立ちまでの日数や習得できた技能で効果を測ることが重要です。

退職コストを見える化する

定着施策にいくら使えるかは、退職による損失と比べて決めます。

退職による概算損失 = 採用費 + 選考・引継ぎ・教育に使う人件費 + 欠員中の残業・外注費 + 失注や生産減による限界利益の減少

すべてを精密に計算する必要はありません。重要職種について標準ケースを一つ作れば、賃金改定、教育、設備投資、業務再設計を同じ土俵で比較できます。定着率を100%にすることが目的ではなく、残ってほしい人が力を発揮できずに辞める損失を減らすことが目的です。

経営会議で確認したい五つの数字

  • 入社3か月、6か月、12か月時点の定着率
  • 部門・職種・勤続年数別の自己都合離職率
  • 採用一人当たりの費用と、独り立ちまでの日数
  • 欠員によって増えた残業、外注、納期遅延、失注
  • 面談で把握した退職リスクと、対策の実施率

全社平均だけでは、問題のある職場や職種が埋もれます。まずは採用難度と退職損失の大きい部門から、同じ定義で毎月追うことが現実的です。

定着は、採用後の投資回収である

社員の定着は、福利厚生の充実や精神論だけで扱うテーマではありません。採用してから戦力になるまでの投資を回収し、技能と顧客対応力を会社に蓄積するための経営課題です。

賃金、会社の将来、仕事内容のどこに問題があるかは、企業や部門によって異なります。退職者の声だけでなく、現在働いている社員のデータと対話から優先順位を決める必要があります。

離職・採用・育成に関する数字をどのように整理し、どの施策から着手すべきか迷われる場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。状況を伺い、検討の入口を一緒に整理します。


参考資料

※各資料は調査対象、集計方法、指標の定義が異なります。数値を単純に比較せず、経営環境を多面的に捉えるための材料として使用しています。